乳糖不耐症とは?
乳糖不耐症(Lactose Intolerance)は、乳糖(ラクトース)を消化するための酵素であるラクターゼが不足している状態を指します。乳糖は乳製品に含まれる主要な糖であり、腸内でグルコースとガラクトースに分解され、吸収されます。しかし、ラクターゼの活性が低下している場合、乳糖が十分に分解されず、腸内に残った乳糖が発酵し、ガスや下痢、腹痛などの消化器症状を引き起こします。
乳糖不耐症の原因
乳糖不耐症の原因は主に以下の3つあります。
- 一次性乳糖不耐症: 遺伝的要因により、加齢とともにラクターゼの活性が低下するもの。アジア人やアフリカ人に多く見られます。
- 二次性乳糖不耐症: 腸の病気や感染症、手術などにより、一時的にラクターゼの活性が低下するもの。セリアック病やクローン病が原因となることがあります。
- 先天性乳糖不耐症: 生まれつきラクターゼがほとんどまたは全く生成されない非常に稀にみられます。
乳糖不耐症の症状
乳糖不耐症の症状は、乳糖を含む食品を摂取した後に現れます。一般的な症状には以下が含まれます:
- 腹痛
- 下痢
- ガス(鼓腸)
- 腹部膨満感
- 吐き気
症状の重さは個々人によって異なり、摂取した乳糖の量にも依存します。
乳糖不耐症の診断と治療
乳糖不耐症の診断は、以下の方法で行われます:
- 水素呼気テスト: 乳糖を摂取後に呼気中の水素濃度を測定し、乳糖が分解されずに腸内細菌によって発酵することで生成される水素の量を確認します。
- 血糖値テスト: 乳糖摂取後の血糖値の上昇を測定し、分解が正常に行われているかを確認します。
- ラクトースチャレンジテスト: 乳糖を含む食品を摂取し、症状の発現を観察します。
日本人と欧米人の違い
乳糖不耐症の発症率は人種や地域によって大きく異なります。一般的に、日本人を含むアジア人やアフリカ人は、乳糖不耐症の発症率が高い傾向にあります。一方、欧米人(特に北ヨーロッパ系の人々)は、乳糖不耐症の発症率が低い傾向にあります。
- 日本人: 乳糖不耐症の発症率は約70-90%とされています。歴史的に乳製品を多く摂取しない文化背景が影響していると考えられます。
- 欧米人: 特に北ヨーロッパ系の人々は乳糖不耐症の発症率が低く、約5-20%とされています。これは、歴史的に乳製品を主食とする文化がラクターゼの活性を保持する遺伝的な選択圧となったためと考えられます。
乳糖不耐症との向き合い方
乳糖不耐症であっても、適切な対処法を知ることで生活の質を維持することが可能です。以下のポイントに留意することが重要です。
- 乳糖含有量を確認: 食品ラベルをチェックし、乳糖を含むかどうかを確認します。
- 乳糖フリー製品を利用: 乳糖フリーの牛乳やヨーグルト、チーズなどを選ぶことで、乳製品を楽しむことができます。
- ラクターゼサプリメントの使用: 外食や乳糖含有食品を避けられない場合に備え、ラクターゼサプリメントを持ち歩くと便利です。
- 少量ずつ摂取: 個々の耐性に応じて、少量ずつ乳製品を試し、自分の許容範囲を見つけることも効果的です。
カルシウムの取り方
乳糖不耐症の方でもカルシウムを十分に摂取する方法はたくさんあります。乳製品以外の食材や乳糖フリーの乳製品をうまく利用することで、必要なカルシウムを摂取することが可能です。以下にカルシウムが豊富な食材や効率的な摂取方法をご紹介します。
カルシウムが豊富な食材
1. 野菜と豆類
- ホウレンソウ: カルシウムの他に、ビタミンKやマグネシウムも豊富です。
- ケール: 骨の健康をサポートするビタミンKも含まれています。
- ブロッコリー: カルシウムの吸収を助けるビタミンCも豊富です。
- 小松菜: カルシウムと鉄分が豊富で、鉄分の吸収を助けるビタミンCも含まれています。
- 大豆製品: 豆腐、納豆、豆乳などは、カルシウムが豊富で乳糖を含まないため、乳糖不耐症の方に適しています。
2. 魚介類
- イワシ: 骨ごと食べることでカルシウムを効率よく摂取できます。
- シシャモ: 骨ごと食べられる魚はカルシウム摂取に最適です。
- サバ缶: 骨も柔らかく食べやすいのでカルシウム摂取に向いています。
3. ナッツとシード
- アーモンド: カルシウム、マグネシウム、ビタミンEが豊富です。
- ゴマ: カルシウムが非常に豊富で、サラダや料理に振りかけると手軽に摂取できます。
- チアシード: カルシウムとともにオメガ3脂肪酸も豊富です。
4. 強化食品
- カルシウム強化豆乳: 乳糖を含まず、カルシウムが追加されたものがあります。
- カルシウム強化シリアル: 朝食に手軽にカルシウムを摂取できます。
- カルシウムサプリメント: 必要に応じて医師と相談し、サプリメントを利用することも一つの方法です。
効率的なカルシウム摂取のポイント
- ビタミンDを摂取する: ビタミンDはカルシウムの吸収を助けます。魚(サケ、サバ)、卵黄、強化牛乳やサプリメントを通じて摂取できます。日光を浴びることもビタミンDの生成に役立ちます。
- オキシラートの摂取を控える: オキシラート(シュウ酸塩)はカルシウムの吸収を妨げることがあります。ホウレンソウ、ルバーブ、ビートの葉などに含まれていますが、調理することでその影響を軽減できます。
- マグネシウムと一緒に摂取: カルシウムの吸収にはマグネシウムも重要です。アーモンド、カシューナッツ、全粒穀物などに含まれています。
- 乳糖フリーの乳製品を活用: 乳糖不耐症でも、乳糖フリーの牛乳やヨーグルトを使うことで、乳製品からのカルシウム摂取が可能です。
- 少量ずつ頻繁に摂取: 一度に大量のカルシウムを摂取するよりも、少量を複数回に分けて摂取する方が吸収率が高まります。
これらの食材と方法を取り入れることで、乳糖不耐症の方でも健康的にカルシウムを摂取し、骨や歯の健康を維持することができます。
参考文献
- 「Nutrition and Diagnosis-Related Care」
- 著者: Sylvia Escott-Stump
- 出版年: 2015年
- 出版社: Lippincott Williams & Wilkins
- 内容: 乳糖不耐症を含む様々な栄養関連の疾患についての診断とケア方法を詳述しています。
- 「Lactose Intolerance and Health」
- 著者: Paige H. Atkinson, PhD and William R. Treem, MD
- 出版年: 2017年
- 出版社: Springer
- 内容: 乳糖不耐症の生理学、遺伝学、臨床的影響、および管理方法に関する最新の研究をまとめています。
- 「Essentials of Human Nutrition」
- 著者: Jim Mann and Stewart Truswell
- 出版年: 2017年
- 出版社: Oxford University Press
- 内容: 人間の栄養に関する基本的な知識を提供し、乳糖不耐症を含む特定の栄養障害についても詳しく説明しています。
- 「Modern Nutrition in Health and Disease」
- 著者: A. Catharine Ross, Benjamin Caballero, Robert J. Cousins, Katherine L. Tucker, and Thomas R. Ziegler
- 出版年: 2014年
- 出版社: Lippincott Williams & Wilkins
- 内容: 栄養学の最新の研究と実践を総合的に取り上げており、乳糖不耐症に関する情報も網羅されています。
- 「The Journal of Pediatrics」
- 論文名: “Lactose Intolerance: Clinical Symptoms, Diagnosis and Treatment”
- 著者: Heine RG, Alrefaee F, Bachina P, De Leon JC, Geng L, Madrazo JA, Ng YT, Phavichitr N, Ramanan PV
- 出版年: 2017年
- 内容: 乳糖不耐症の臨床症状、診断、および治療方法について詳述しています。
その他の参考リソース
- The National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (NIDDK)
- ウェブサイト: NIDDK Lactose Intolerance
- 内容: アメリカ国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所が提供する乳糖不耐症に関する詳細な情報とリソース。
- Mayo Clinic
- ウェブサイト: Mayo Clinic Lactose Intolerance
- 内容: 乳糖不耐症の原因、症状、診断、治療についての信頼性の高い情報。
コラム執筆・監修者
合同会社 Rerise
つくし鍼灸整骨院
代表取締役 東 智博
厚生労働大臣認定 柔道整復師 鍼灸師 専科教員
経歴
墨田区内整骨院勤務14年
2019年7月 台東区北上野につくし鍼灸整骨院を開院